2025.10.15
ばぁちゃんの馬油を訪ねて~熊本馬油をめぐる旅~・前編

九州 熊本県は阿蘇山の恵みや、大地から流れる豊かな水が人々の暮らしを支えています。そんな熊本の自然の産物である〝馬〟と〝馬油〟。今回は 「馬」や「馬油」がどのように暮らしに根付いていたのかを知るべく、 熊本の〝ばぁちゃん〟を訪ねました。
母に教わった馬油が頼り
熊本市に住む髙田 清子さん(82歳)、子供の頃から馬油を使っていたといいます。
「馬油は薬箱や戸棚の見えるところにあるのが当たり前だったわ。慣れない炊事で火傷をしたときは、馬油を塗っておけば安心。その馬油も近所のお肉屋さんで買ったものよ。小さな瓶に入っていてね。キズの治りが早いものだから、いつも頼りにしていたわ。何かあれば馬油を塗りなさいって母に教わったの」。そう言って、昔ながらの馬油を見せてくれました。
ばぁちゃんが大切にしている、昔ながらの馬油。
「私の家では、馬油は何十年と変わらずに受け継がれてきたもの。お守りみたいな存在なのよ」。
孫に塗る“魔法の馬油”
宇城市に住む丸山トミエさん(74歳)も、馬油は困ったときの救世主だといいます。
馬油は世代を超えて重宝しているのだとか。
「孫が幼い頃、ケガをすると『ばぁちゃん馬油塗って』って来るもんだから、よく塗ってあげていたわ。そうすると、泣きわめいていた孫もケロッと泣き止むもんだから、よく“魔法の馬油”ね、なんて笑ったもんだわ」
丸山さんは楽しそうに語ります。「私の住んでいる町は、山に囲まれた一面田んぼの静かなところ。電灯もないけれど、近くに馬小屋があってたくさんの馬がいるの。昔はその馬を見に、孫を毎日連れて行ってあげていたのよ。今でも幼かった孫の笑顔と一緒に馬を思い出すわ。振り返れば、いつも近くに馬がいたのよね」。
ばぁちゃんたちが語った「馬」と「馬油」の思い出。熊本の人たちにとって、馬は暮らしになくてはならない存在なのです。

<2023年 新春号 Vol.59 13-14ページ掲載>