2019.11.08

季節の食卓

ふるさとレシピ 第9回『ちゃんちゃん焼き』

日本の北から南まで、様々な郷土の魅力を味わう『ふるさとレシピ』。今回は北海道・武田さんちの「ちゃんちゃん焼き」をいただきました。

季節を告げる秋の味

国道を走り、取材先へと向かう。長く続く林を抜けると、車窓に広大な川が開けた。標津岳(しべつだけ)を源に発する河川を束ねる標津川だ。

標津の地名はアイヌの人々の言葉による「シ、ペツ」(大きな川、または鮭のいるところ)に由来する。秋口になると、この故郷の本流を海より目指し、多くの鮭が帰ってくる。


本格的な漁はまだ始まってはいなかったが、気の早い鮭がもう網にかかるらしい。

「丁度昨日上がったばかりなんですよ」と鱗の光る美しい鮭を手に、標津町で郷土料理の料亭を営む武田敬子(たけだけいこ)さんが待っていてくれた。


大衆魚として食卓に馴染みの深い鮭は、ほとんどの水揚げが北海道で行われる。標津町では、多い時は一度の漁で6千~1万尾近くの鮭が網にかかることもあるそうだ。

標津では鮭は「秋味」と呼び親しまれ、かぶとから、肝、血合いまでも味わう、様々な料理が伝わる。




「さぁさぁ、今日は腕を振るって、新ものの秋味のちゃんちゃん焼きをご馳走しますよ!」と武田さん(写真左)。熱々の鉄板の周りに、地元の漁師さん達も集まります。

ふわっと柔らかな秋味に、しゃきしゃきの野菜

ちゃんちゃん焼きは、北海道の鮭を使った代表的な郷土料理だ。由来は浜辺のチャン(父ちゃん)が作った漁師料理といわれるそうだが、鮭を一匹丸ごと使って作る様子は、確かに豪快。

武田さんが両手を使って大きな切り身をどさっと返すと、鉄板からジャーッとうまそうな音がし、周りから歓声が上がった。鮭の身の紅は、火が通るとうっすらとした桃色に変わる。

そのまま炒めれば「サケ」るほど柔らかいと言われる身が、簡単にほぐれ、野菜に合わさる。熱により溶けだした内臓が味噌に絡まると、独特の香ばしい匂いが立ち上がった。


「この辺はもういいあんばいだから、食ってみな」。

勧められるまま口に含むと、ふわっと柔らかな秋味の身がしゃきしゃきとした野菜と合わさってうまい。具材のあまみと、内臓のうま味が溶け出した味噌が焦げ付くと、また風味が変わり、箸が進む。

「ちょっと残しておいてくれよ。残ったちゃんちゃんを飯にかけて丼にすると、またうまいんだ」

吹き抜ける風の涼しさに秋の訪れを感じる。やがて、今年もふるさとに帰ってきた大漁の秋味が、北国の食卓に季節を告げるのだろう。




ちゃんちゃん焼きは豪快さがポイント。ぜひ鉄板から立ち上る湯気や、音もお楽しみください。

作ろう♪ ちゃんちゃん焼き

ちゃんちゃん焼きの味を決める味噌は、ご家庭により、合わせる調味料は様々です。

旬を迎えた野菜からたっぷり甘みが出るので、砂糖を使わないのが武田さん流。秋味のうまみも引き立ちます。

[材料]5~6人前
鮭     半身(好みにより内臓、アラ、中骨など)
かぼちゃ  4分の1個
ジャガイモ 2個
玉ねぎ   2個
キャベツ  2分の1個
もやし   1袋
バター   20~30g
他、きのこ、トウモロコシなど好みの野菜を加える
◆調味料 みそ……200~300g 酒……150cc
     みりん……50cc ごま……適量

[作り方]
①調味料を合わせる。
②野菜を適度な大きさに刻む。
③鉄板、またはホットプレートに油を敷き、先に野菜を炒める。
④鮭の身を乗せる(アルミホイルなどで蓋をすると火の通りが早い)。
⑤調味料と合わせたみそ、バターを乗せる。
⑥程よく火が通ったら鮭の身を返し再び蓋をする。
⑦箸などで手際よく絡め、炒めて完成。


<2013年 秋・冬号 Vol.22 13-14ページ掲載>




twitter facebook LINE Instagram

こちらのページも一緒に読まれています