2017.12.07

食と栄養

おいしいだけじゃない、だしとうま味の実力

今回の特集では、だしのうま味とその実力について迫ってみたいと思います。

おいしさを表す「旨味」と、「うま味」は違うもの

 甘味、塩味、酸味、苦味は「基本味(きほんみ)」と呼ばれ、「うま味」は第5の基本味です。いずれも独立した味で、他の味を混ぜ合わせても作ることはできません。
 おいしさを表す「旨味」とは実は別物で、「うま味」はおいしさではなく、特定の成分が作り出す固有の味。つまり、日本人が慣れ親しんできた「だしの味」です。
 5つの基本味は、体に影響する成分が含まれていることを表す信号として、それぞれ舌から脳に伝わります。「うま味」は、たんぱく質の存在を知らせる信号であり、私たちの体を作る不可欠な栄養素なので、おいしいと感じることが多いのです。
 また、甘味や塩味は舌の先の部分で感じますが、「うま味」は舌全体で感じているといわれています。さらに他の基本味よりも長く舌に残るので、だしのうま味を活かした料理は、薄味でもおいしく感じられるのです。

日本人が培ってきただし文化。その仕組みを知り、生活に活かしていきましょう。

だしの「うま味」に期待できる様々な健康効果

 うま味には、健康によい効果があることもわかっています。舌の広範囲で感じ、唾液の分泌を促して、消化吸収を助けます。また、胃などの消化管でうま味が感知されると、脳に信号が送られます。すると脳からの指令で体は消化吸収の態勢に。この仕組みが脳の活性化につながると期待されているのです。

 だしを使った料理は、うま味で味がしっかりとするため、薄味でもおいしく感じられます。これは、うま味を舌の広い範囲で感じることにも関係しています。塩や砂糖を減らすことができるので、肥満や高血圧などの生活習慣病の予防につながります。
 このことに着目し、「だし活」に取り組んでいるのが青森県です。厚生労働省が発表した「都道府県別平均寿命ランキング」(2010年)によると、最下位は男女とも青森県でした。その大きな原因とされているのが、塩の摂り過ぎです。食塩の1世帯あたりの年間消費量は、全国平均が2・6kgのところ、4・57kgも消費。
 このままではいけないと、昨年から「だし活!健活!減塩推進事業」に取り組み始めました。現在、青森県は、県産素材を使用した「だし商品」の開発や「だし活給食」の実現、「だし活料理レシピ」の作成・普及などに取り組んでいます。数年後の結果に注目です。

煮干しだし(写真左)、昆布と鰹の合わせだし(写真右)の簡単な引き方を紹介します。

誰にでもおいしいだしが引ける「水出し法」

 しっかりと天然素材で引いただしを取り入れることで、健康はもちろん、「だしを引く」という和食の基本が残ることにつながっていけばと思います。
 毎日だしを引くのは手間がかかるから無理、と思っている方にぜひ、試していただきたいのが「水出し法」です。基本的には分量をセットしたら冷蔵庫に入れるだけ。簡単な方法からはじめてみてはいかがでしょう。自分で引いただしのおいしさに、「日本人でよかった」と思うことでしょう。

○煮干しだし
材料/1L分
煮干し…40g(よく乾燥した新鮮なもの)水………5カップ(1L)

作り方
① 煮干しの頭とはらわたを取ると、雑味・苦味のないすっきりとした味になる。雑味や苦味は、煮干し特有の力強い風味でもあるので、それを好む場合はそのままでも。
②香ばしさを出すため、煮干しをフライパンで3~4分から煎りする。電子レンジで加熱(500~600Wで約30秒)してもオーケー。
③ ふたのある麦茶用の透明容器などに煮干しを入れ、水を注ぐ。ふたをして冷蔵庫に入れ、3時間以上置く。水が淡い黄色に変わったら完成。

★煮干しの処理★
 苦みが苦手な人は、煮干しの頭とはらわたを取るとよい。頭、はらわたの順に軽く引っ張れば、それぞれ簡単に取れる。

○昆布×鰹だし(合わせだし)材料/1L分
昆布……10㎝程度(約5g)削り節…15~20g
塩………ひとつまみ(1g)
砂糖……ひとつまみ(1g)
水………5カップ(1L) 作り方
①ふたのある麦茶用の透明容器などに昆布と削り節、塩、砂糖を加える。少量の塩と砂糖を加えることで、うま味がより引き出されやすくなる。
②分量の水を注ぐ。(ミネラルウォーターを使う場合は、軟水を使用する)
③ふたをしっかり閉めて、冷蔵庫を入れる。水を入れた直後は材料が浮いているが、徐々に水分を含み、沈んでいく。一晩(6時間以上)かけてじっくりうま味を引き出し、水が淡い黄色に変わったら完成。

★保存は冷蔵庫で約1週間を目安に★
 だしは常に冷蔵庫で保存し、においやにごりなどに注意しながら1週間以内に使い切る。使う時は茶こしやキッチンペーパーなどでこす。冷凍する場合は材料をこしたものを、冷凍保存用袋に小分けにするなどして冷凍庫へ。


<2017年 春号 Vol.36 19-23ページ掲載>

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