2017.12.07

季節の食卓

ふるさとレシピ 第一回『じゃっぱ汁』

「ふるさとの味」を求めて、全国の食卓にお邪魔する「ふるさとレシピ」。
今回は青森県・立石さんちの「じゃっぱ汁」をいただく。

「鱈ばなげるとこねえ」

 青森県の「じゃっぱ(雑把)汁」は、県の自慢の魚である鱈の定番料理。本来は骨やアラなどの余った部分を使う料理だったが、現在は切り身や肝、白子などふんだんに加えて作る豪華な「鱈汁」として楽しまれている。具は鱈と、大根にネギ。味付けは味噌のみと、いたって簡素だが、無駄なく使われる鱈から何とも複雑で深いうま味が生まれる。
 「切れる包丁でねーば、ダメ」そう言って捕れたばかりの鱈をさばいてくれたのは青森県脇野沢漁協・女性部の立石由喜子さん。通常、魚の3枚おろしでは中骨やアラは捨ててしまうが、一切を無駄にしない漁協のお母さん達の包丁さばきは見事だ。包丁をまるで鉈(なた)の様に振い、巨大な鱈の中骨やアラも、文字通り打って(ぶった)、切って(ぎって)いく。さらに鱗の無い鱈はぬるりと滑りやすいため、真冬となれば雪の上で切ることも多いのだと立石さんは話す。「雪の上でやれば、部屋も汚れねーし、皮のにごり(血)も取れる」。何とも豪快である。
 内臓から骨まであらゆるところが材料となるじゃっぱ汁だが、貴重な鱈を、一つの料理に使いきることは少ないという。一匹の鱈料理の幅は広く、地元のお母さん達に話を聞くだけでも「刺身にするだばー」「フキと炒めるの」「ともあえ(味噌と肝とで身をあえる)さ」「ささめ(えら)や胃袋もじゃっぱさ入れる。鱈ばなげるとこねえ」と、様々なバリエーションに驚かされる。

定番は味噌だが、最初の漁の鱈は「みそがつく(不漁になる)」のを嫌がり塩で味を付ける。

指先から伝わる冬のうま味

 青森の言葉で「馬の鼻息で煮える」と表現されるほど、鱈の身は火の通りが良いため、熱を通した程度でほとんど煮込まずすぐ火から降ろす。鍋の蓋を上げると湯気とともに、味噌と濃厚な胆の甘い香りが漂う。
 「丁度いいかげんだ」 大量の肝からアクが出るが、これはうま味でもあるため一切すくわない。しかし臭みはなく、底が見えないほどの濁った汁に一層食欲がそそられる。三平皿にたっぷりとよそい、いただく。
 「手のひらで味わう」という話がある。例えば、おむすびの引き締まった米の感触、抱えるように持つ丼ものの温もりなど、手に乗せた瞬間に何とも言えない「うま味」を感じるということだ。青森県の脇野沢は下北半島の最南に位置する。太平洋と日本海が合流する手前のこの地では、真冬の気温はマイナス10度。強い海風にさらされると瞬く間に耳や鼻の感覚が奪われていく。そんな指先も凍ってしまいそうな寒さの中、アツアツの陶の皿を渡される。冬の寒さに旨みの乗った「鱈」をたっぷりと使った「じゃっぱ汁」に、思わず手のひらが「うまい」と喜んだ。
 箸を入れると親指ほどあろう太い骨からほろほろと身がほぐれ、口に含めば淡雪のように崩れる。淡白な味わいの魚だが甘みが強く、独特の味わいがある。ここに肝の仄かな苦味と甘さが合わさると――もう、何とも言えない。
 「遠慮ばいらねぇ」という立石さんの言葉に甘えてもう一杯。持っていると指先が痛くなるような皿の熱さがまた、旨い。厳しい寒さも忘れさせてくれる。青森の冬には欠かせない、故郷の一品だ。

身、肝、アラ。鱈を余すことなく使うじゃっぱ汁。この冬、濃厚な野性味で温まりたい。

作ろう♪ ふるさとレシピ ~じゃっぱ汁~

材料と分量………4人分
たらの身とアラ…300~400g
たらの肝…………120g前後
水…………………1600cc
味噌………………140g
大根………………1/3本
長ねぎ……………1本

作り方

① 鱈をさばく。頭は割り、骨はぶつ切りにする。内臓は軽く洗い、汚れを落とす。(鮮度により軽く湯通ししても良い。)
② 鍋に水を入れ、煮立ったら先に刻んだ大根を煮る(好みにより下茹でしても良い。)
③ 大根に十分火が通ったら、肝をちぎって入れ、味噌を溶く。 鱈(骨、アラ、身)を鍋に加える。
④ 最後に白子を入れ、一煮立ちさせたら、ネギを加え火を止める。


<2013年 新春号 Vol.19 35-36ページ掲載>

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