2019.03.27

ふるさと風景

昔ながらのお酢ができるまで

お酢は、日本人にとって欠かせない調味料。その過程の一部を、約1年かけて取材しました。

田に苗を植え、稲の生育を見守る

日本の代表的なお酢である米酢は、その名の通りお米からつくられています。

お米をつくるのに数ヵ月。収穫されてから、どのようにしてお酢になるのか、昔ながらの製法を守っている醸造所で、その過程の一部を取材させていただくことができました。


ご協力いただいたのは、京都府宮津市にある飯尾醸造(いいおじょうぞう)。お米づくりからお酢の醸造までを行う、明治時代から続くお酢屋さんです。


春、飯尾醸造は標高が高い棚田で稲作を行います。

まだ少しばかり肌寒さを感じる棚田で、田植えに向けての種まきや田起しなどの準備が始まります。

まず、用水路の掃除や獣害対策の防柵の設置などの作業のあと、4月下旬からは、田んぼの補修、田起し、そしてようやく、5月中旬~下旬にかけて田植えが行われます。


田植えから2ヵ月ほど経つと、稲が青く茂り、毎日のように除草に追われます。

また、夏の変わりやすい天候や病気や害虫なども厄介です。稲が出穂するまで一切油断できず、ひと安心できるのは、精米のあとだそうです。




米を育て、酒を仕込み、酢をつくる。昔ながらのお酢づくりは、1年超の年月と手間暇によってつくられます。

麹から仕込む酒づくり

棚田に実りの秋が訪れた9月中旬。一面、黄金に色づく見事な稲穂の風景に、このお米がお酢になることがとても贅沢に思えました。

収穫後、穂掛けに稲を掛けて天日干しに。乾燥を終えると、ようやく脱穀です。

お酒づくりの蔵人(くらびと)であり、お米づくりも担当する伊藤浩二(いとうこうじ)さんは、「田んぼと向き合うことは、コントロールできないものとの闘いです」と語ります。

棚田の性格も一枚一枚違うそうで、問題があれば、日誌の記録から考察して対策を考え、「あとは稲の生命力を信じて見守るだけ」なのだと言います。


そして、冬。無事にお米の収穫を終えてやっとお酢づくり。

でも、お米はお酢になる前に、一度お酒になる、ということをご存じでしたか?

飯尾醸造では、お酒づくりも、自社の杜氏(とうじ)*と蔵人(くらびと)*によって行われます。

麹づくり、酒母づくり、仕込みといったお酒づくりの過程は、飲むための日本酒とほぼ変らないのです。


約1ヵ月、深夜でも発酵の様子を確かめ、櫂*を入れることもあるというから大変です。

杜氏や蔵人に見守られ、「酢もともろみ」とも呼ばれるお酒ができあがります。これは、お酢をつくるためだけにつくられるお酒なのです。


*杜氏:お酒づくりの最高責任者/蔵人:お酒づくりの職人/酵母:糖分をアルコールに変える微生物/櫂:撹拌する道具




実際に棚田に触たことで、“日本の食卓の向こうには、自然の恵みを受け厳しさに耐える田畑が広がっている”という思いを強くしました。

1年中酢づくりは絶え間なく

約1ヵ月半のお酒づくりを終え、いよいよお酢の仕込みが始まります。

タンクに種酢と水、お酒を入れて40度に温め、他のタンクからの酢酸菌膜を植菌します。

「酢酸菌膜をきれいに広げて浮かべるのは、ちゃんと居ついてくれるか、とても緊張する作業です」と話すのは、蔵人の和田寛章(わだひろあき)さん。

2~3日後、タンクの表面を酢酸菌膜がびっしりと覆っているとひと安心。


酢酸菌のごきげんを伺い、活動を調整する。職人の経験・知識と、四季の気温や生きている菌との協働作業が、丁寧に行われています。

発酵が終わると熟成蔵に移され、さらに8~10ヵ月もの時間をかけて熟成。こうして昔ながらのお酢が完成するのです。


私たちが普段お店で手に入れられるお酢は、完成まで約3ヵ月。一方、昔ながらのお酢は1年半。原料のお米からなら約2年。

完成までにかかる時間と手間の差に驚きがありました。そこには、季節がはっきりしているからこその手間があります。

伝統的なものづくりに関わる方々の「安全でおいしいものを届けたい」という思いに感謝し、食を大切にしていきたいと思います。


<2018年 春号 Vol.40 3-10ページ掲載>




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