2018.09.10
ふるさと風景
夏の夜を絢爛と彩る七夕飾り

富山県高岡市では7月7日を男児の節句とし、子の成長を願い、市を上げて各町が競って美しい七夕飾りを作り上げる。
夏、祭りに向けての準備
最後に短冊に願いを書いたのは、いつだったろうか。「七夕」は子どもの行事と考えるようになり、ずいぶん経つように思える。
夏、富山県の高岡市では各町がこぞって美しい七夕飾り作りに取り組む。訪れたのは戸出町(といでまち)の17軒からなる「戸出町東町1組」。市長賞15年連続の獲得に向けて、祭りの準備が始まっていた。
組のまとめ役である木下和彦(きのしたかずひこ)さんは、この地戸出町においての七夕は、男児の節句であり、各家庭で七夕飾りを飾る風習があるのだと語る。
「親父の初節句の時の白黒写真が残っていてね、昔は灯りもろうそくだから火の番を立てたりなんかしたそうだ。今は便利だね」といってペンチで竹細工に巻きついた電飾を調整する。
この竹細工は灯りがつくと天の川になるそうだ。

左から朴木和宏(ほうのきかずひろ)さん、木下和彦(きのしたかずひこ)さん、柴田輝芳(しばたてるよし)さん。意見が飛び交うさまは、なんとも活気に溢れている。
男手の集まる活気のある飾り作り
作業をするのは7〜8人、伝統を守る戸出町の七夕飾りは山に入っての竹の切り出しから、組み立て、設置など力のいる仕事が多い。
各家から男手を集めて取り組む飾り作りは活気があり、木下さんが作業する間も「そっちの電飾はちゃんとつくのか」「雨で配線が悪くなってんだ、良いものを買わなくちゃ」と意見が飛び交う。
訪ねたのは昼間だったが、実際に作業をするのは夜。お茶屋、呉服屋、床屋と組員それぞれの仕事を終えて集まるため、七夕の準備期間は、「祭りにかこつけ残業は禁止(笑)」なのだとか。
「設計図が描ける奴、竹や木を切るのが上手い奴、紙を貼るのが丁寧な奴、それぞれのいいところを活かして最高のものを作る。ちなみに俺の専門はコレ」といって木下さんが指差すのはダースで置いてある缶ビール。しかし、周りに聞けば「和彦さんは絵がうまい」と教えてくれた。

和気藹々としながら最高のものを作り上げていく戸出町東町1組。
「伝統や文化もあるけど、自然に集まるのは楽しいからだろうな」
それにしても、各自が持ち寄る酒類の多いこと。何しろ歩いてすぐの隣近所、気心の知れた仲間ばかりで、仕事後に取り組む祭りの準備となれば、杯を交わしながらは当たり前なのだとか。
飾り作りの作業場は、組の空家を整備して使っているそうで、誰が持ち込んだのか冷蔵庫やテレビまである。もしかしたらここは彼ら大人の秘密基地なのかもしれない。
「伝統や文化もあるけれど、こうやって自然に集まるのは楽しいからなんだろうな」と組員の一人である柴田輝芳さんは笑う。飲んで歌って和気藹々としながら一つのものを作り上げていく。
作業が夜遅くに及ぶこともあるそうだが、それもまた醍醐味なのだろう、祭りの当日から誰となく「来年はどうしようか!」と声を掛けあうのだそうだ。
美しい夏の夜空に子供の成長を願い掲げられた七夕飾りは、仲間が力を合わせる、年に一度の夏祭りとして受け継がれている。戸出町の親父たちの熱気に触れ、ふと短冊に願いを綴る少年の頃を思い出していた。
*取材協力
戸出町東町1組
<2017年 夏号 vol.37 2-4ページ掲載>