2018.07.09

季節の食卓

ふるさとレシピ 第3回『冷汁』

「ふるさとの味」を求めて全国の食卓にお邪魔する「ふるさとレシピ」。今回は宮崎県・大辻さんちの「冷汁」をいただく。

手早く作る、夏の涼

宮崎県に伝わる「冷汁」は、胡麻や煮干しをすりつぶした味噌だしにたっぷりと野菜・薬味を加えて作る夏の代表的な郷土料理だ。


「具材はその時期の夏野菜を使います。これからはオクラなんかも美味しいですよ」と、すりこぎを手に話すのは宮崎県国富町の大辻(おおつじ)ふみ子さん。

市の食生活改善推進員として地元食材のレシピ提案などを行っている。


「基本の素材をしっかりすりつぶす。これが冷汁の味の決め手です。国富では煮干しと胡麻、それから落花生が欠かせません」と、すり鉢で素材を砕いていく。

昔はだしを引いた後の魚の骨などをすりつぶして食べるなど、ひと手間をかけて無駄を出さないようにする工夫だったという。

その知恵は、現在の冷汁にも残っている。


すりつぶした素材に味噌を加えてもうひとすり。それをひっくり返して火であぶると香ばしい匂いが漂い、食欲をそそる。

この冷汁の「もと」を大量に作り、保存さえしておけば、あとは具材とだし汁を合わせるだけで手早く冷汁が完成するのである。



「急にお客さんが来ても手早く作れちゃうんです」と、冷汁の「もと」を手に笑顔の大辻ふみ子さん

「麦飯にかけると格別です。さあ、どうぞ」。

たっぷりと冷汁をかけてもらった椀を受け取る。

味噌だしに浮かぶ夏野菜がなんとも鮮やかだ。豪快にかき込むと、だしの香ばしさがわっと口中を満たした。

すりつぶしたゴマや煮干しの独特な舌触りと、きゅうりや豆腐などの硬さの違う食感が愉しい。

味付けは味噌のみ、素材も素朴な物ばかりだが、合わさることにより何とも複雑で力強いうま味を感じさせる。


田植の繁忙期に、余った汁を飯にかけて食したのが始まりといわれるこの料理は、人に振舞うようなものではないと、広く知られることはなかった。

しかし、現在の冷汁は滋養豊かな野菜を贅沢に入れ、郷土料理として宮崎の食卓に定着し、全国でも注目されるようになった。


「昔は煮干しを丸ごと使っていたんです。だから子供の頃、冷汁は苦手だった人もいますよ」

味わいは力強く、からだにやさしい。

今年の夏は宮崎の暮らしに育まれた冷汁を、食卓にとり入れてみるのもよいだろう。



下準備さえしておけば火も使わずにさっと作れるスピード料理だが、スローフードでもあるのだ

作ろう♪ 手早く夏を味わえる『冷汁』

各地の郷土料理ではこだわりを追求するが余り、調理に時間がかかったり、一般家庭では手に入りにくい食材を使うことも少なくない。

しかし、今回ご紹介する『冷汁』は季節の食材ならばなんでもOK!その上、調理も簡単なので、郷土の知恵を食卓に取り入れてみるのはいかがだろう。


宮崎県・大辻さんちの『冷汁』レシピ

[材料]4人分

味噌
だし汁
胡麻
煮干し
ピーナツ




【A】
木綿豆腐
きゅうり
大葉
小ネギ
茗荷
40g
300cc
20g
20g+5g
20g

240g
40g


半丁(200g)
1本(100g)
2枚
20g
1個


[作り方]
① 米に麦を混ぜ、麦飯を炊く。

② 煮干し(20g)頭、腹ワタを取り除く。
  ゴマ、ピーナツをそれぞれ煎り水分を飛ばす。残りの煮干しでだしを引く。

③ Aをそれぞれ食べやすい大きさに切る。
  きゅうりは輪切り、大葉・茗荷は千切り、ねぎは小口切り。

④ すり鉢でゴマ、煮干し、ピーナツをよくすりつぶす。

⑤ 味噌を加えさらによくすりつぶし、すり鉢に貼りつける。
  鉢ごと逆さにしてコンロにかざして香ばしく焼く。
★大辻さんのポイント
IHの場合は電子レンジでも良いですよ!

⑥ ⑤にだし汁を少しずつ加え、のばす。
 (焼いた直後に冷たいだし汁を入れると鉢が割れるので、冷ましてから入れるこ
  と。)

⑦ ⑥に③を加え、豆腐をくずして混ぜ、麦飯にかける。


<2012年 夏号 Vol.17 25-26ページ掲載>

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