2018.01.23

にっぽん再発見

福を呼び込む『縁起もの』~暮らしの中の福探し~

門松(写真左)の松、竹、梅は、それぞれ「不老長寿」「成長力」「生命力」を表し、おめでたいことの象徴です。

縁起ものの発祥

 私たちの身のまわりには、たくさんの「縁起もの」があります。家内安全、無病息災、開運招福……、時代は移り変わっても、それを願う心は変わりません。
 そのような縁起ものが、日々の暮らしの中にどのような形で根づいているのか、紹介したいと思います。

 縁起ものの「縁起」とは、もともと神社やお寺の由来や成り立ちを記した書きもののことでした。信仰する人にそれを配るとき、開運がもたらされるような品物を渡したのが始まりと言われています。その後、民間に伝わる言い伝えや古来の出来事からも縁起ものは生まれ、また「物」だけではなく、「よいことが起きる」という願いを込めたしきたりや行事なども含めて縁起ものと言います。

 例えば、季節のしきたりでは、1月7日に食べる七草がゆは、七種の野草のエネルギーをからだに取りむことで、1年の健康を祈ります。2月の節分では、「福はうち」の声でまく「福豆」は、年の数だけ食べればその年は病気をしないと言われる縁起ものです。  雛祭り、端午の節句で飾られる人形飾りも、子どもの成長を祈るとともに、災いから守られるようにと、縁起のいい品々を飾るのです。これも全て、縁起ものに当たります。

おせち料理も縁起もの尽くし。重箱に重ねるのは、「めでたさが重なるように」との縁起を担いで。

年のはじめの縁起もの

 旧い年が終わって、新しい年に切り替わる時期を、日本人はとても大事にします。お正月の門松や、しめなわ飾り、鏡餅は新しい年に運気を与えてくれる歳神(としがみ)様をお迎えするためのもの。しめなわ飾りに使われる新しいワラは、旧い年の不浄を祓い、ウラジロというシダ植物は「裏が白く二つ心がない」というので「誠実」の意味。橙は「代々」で家系が続くことの象徴、といった具合に、縁起のいいものを組合わせて仕立てられます。

 おせち料理も、もとは神様へのお供えもので、料理を詰めた重箱は、まさに縁起ものづくしです。黒豆は「まめに元気に暮らす」、数の子は「子孫繁栄」、栗きんとんは「栗金団」と書くことから金運を招く。田作り(ごまめ)は「豊作祈願」。昆布巻きは「よろこぶ」の語呂合わせと「子生婦(こんぶ)」という当て字による「子孫繁栄」の縁起ものです。そして鯛は「めでたい」から。

 お気づきの方も多いでしょうが、縁起ものには語呂合わせや当て字によるものが実に多いのです。形式や厳粛さを重んじる一方で、取り入れやすく手軽なところがあるので、暮らしの中に馴染んでいるのですね。

日本の縁起もの代表格“七福神”。その人気は全国に渡り、様々な形で暮らしの中に根付いています。

福がいっぱい

 ほかに日本の代表的な縁起ものといえば、七福神があります。恵比寿、大黒天、毘沙門天、弁財天、寿老人、福禄寿、布袋の七人の神様は、それぞれに得意なご利益をもっています。日本の各地に「七福神めぐり」がありますが、七つすべてをお参りすると、福も運気もアップ。七福神を財宝とともに積んだ「宝船」の絵を1月2日に枕の下に敷いて眠ると、吉夢が見られ、その1年はいいことが起こるとか。

 熊手も忘れてはならない縁起ものの一つです。もとは農具として使われた熊手で、福や運を「かっこむ」、「さらう」という意味が込められています。関東では年の瀬も迫る11月に「酉の市」が開かれ、華やかに装飾された熊手を求める人で大賑わいとなります。一方、関西では大阪を中心に、年が明けてから「十日戎」が開かれ、こちらも「福さらえ」と呼ばれる熊手が売られます。

 飾る、置く、身につける、食べる……。いろいろなものに、さまざまな形で願いを込める私たち。何も大げさなものでなくてもいいのです。ささやかで、何気ないもので、それでいて身近にあると嬉しくなるのが縁起もの。そしてまた、自分ひとりのためだけではなく、誰かのために贈りたくなるのも縁起ものです。

 いいことがあるようにと願い、信じれば、本当にいいことが起きるような気がします。縁起ものは、穏やかな心で日々を前向きに生きる、日本人の知恵かもしれません。
 さあ、今年の「福」は、何に託しましょう。


<2014年 新春号 Vol.23 5-6ページ掲載>

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