2019.10.31

ふるさと風景

福をかきこむ熊手

熊手職人である村田滋幸さんと、滋幸さんの娘さんである、白坂有希さん(右)と松本恵里佳さん(左)。熊手飾り作りには作り手それぞれの感性が表れるそう。

酉の市の準備は春先から

酉の市といえば初冬の風物詩。毎年11月になると、関東を中心に各地の寺社で酉の市のお祭りが開催されます。

古くから酉の市が開かれる東京・台東区鷲神社の近く、家業80年となる村田商店3代目の熊手職人、村田滋幸さんの熊手作りは、春先から始まります。

秋口となる10月は、大詰めを迎える頃。「寒くなってくると支柱の竹の青みがしっかりしてくるんです。縁起ものだから鮮やかさは大事ですね」と、話しながら、大きな手で器用に熊手飾りを組んでいきます。

今日制作する小ぶりの熊手の中心には、穏やかな顔の招き猫。

村田さんの熊手作りは鮮やかな色と、どこか癒される可愛らしさが特徴のようで、見ているこちらも和みます。

「飾りの組み合わせに厳密な決まりはありません。私自身が好きだな、飾りたい、と思えるものを作ります」そう語る村田さん。

新しい縁起飾りもどんどん取り入れているそうですが、家業を始めたおじい様の頃は伝統的な熊手作りをされていたと話します。

「実は新しいものを取り入れるようになったのは父の代から。おおらかで優しい人でね、後を継ぐ私にも好きなように作らせてくれたんです。私も娘たちのアイディアもどんどん取り入れるようになって」

どこか可愛らしく、優しい気持ちになる熊手飾りは海外のお客様や若い人にも好まれ人気があるといいます。




熊手作りを継いだ2人の娘さんたち。「子どもの頃から身近にあったものなのでなくなるのは寂しいと感じて。今はもっと若い人にも熊手を求めてほしいですね」と、話します。

全国の縁起物が集まった熊手

商売繁盛を願う参拝客が買い求めるのが「熊手飾り」。もともと農具である熊手が、「大きな手で福をかき入れる」縁起物として売られるようになったのが始まりなのだとか。

そんな熊手飾りの個性を演出するのは熊手に飾る様相豊かな縁起物の数々。問屋でもある村田商店では、様々な縁起物が集まります。

「長く商売していると、新たに縁が出来ることもある。お客様から聞いたり、自分で調べたりして、商売仲間は全国にいますね」そう村田さんが話すように、取引は東北から九州にまで及ぶといいます。

全国各地で作られた縁起物が寄せ集まって熊手に組まれていると思うと、より福をかき入れられそうな気がします。

伝統的で変わらない縁起物もあれば、招き猫のように新たに加わったものも。

格式にとらわれ過ぎない自由な村田さんの熊手飾りを求め、毎年訪れる常連も多いのだそうです。




華やかな飾りの中央に、むくむくとして可愛らしいちりめんの招き猫。穏やかな表情に、和やかな気持ちになります。

商売繁盛は人間の“前向きな欲”

「今年は熊手を飾ってどうだったって、お客さまから色々な話を聞くのが嬉しいですね。『支店が増えた』とか『事業が拡大した』『賞を受賞した』なんて良いことを聞くとこっちも笑顔になります。商売繁盛っていうのは人間の“前向きな欲”だと思うんです。熊手を飾って福をかき入れられたとしたら、それは本人の努力の結果。ただこうやって華やかなものを飾ると気合が入るでしょ。よし頑張るぞって気持ちを起こしてくれるのが熊手飾りの良いところだと思います」

職人の好みが表れる個性豊かな熊手飾り。もし酉の市にお出かけする機会があったら自分の「好き」を見つけてみるのもいいかもしれません。

お気に入りの熊手飾りを見るだけで、ぱっと活気が溢れ、気持ちを明るくしてくれます。

そして、「また頑張ろう」「きっと良いことがある」と信じて日々を重ねることで、本当に福を呼び入れることができるのだと思います。2020年が良い年になりますよう。


今回紹介した『村田商店』はこちら
●東京都台東区千束3-8-2 電話:03-3875-0808
●毎年東京・鷲神社(東京都台東区千束3–18–7)に出店
●今年の酉の市:11月8日・20日(二の酉まで)

<2019年 秋・冬号 Vol.46 2-4ページ掲載>




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